種名目録公開システムの更新
千里の道も一歩からといいますか、日本動物分類学会での種名データベースの発表にあわせて、日本産蝶類和名学名便覧で使用している種名目録公開システムに久しぶりに手を入れて更新しました。基幹システムのバージョンアップを行ったため(Ruby on Rails 2から3へ)、見た目はほとんど変わりませんが、かなりの部分を作り直しました。機能的には、科内の亜科や属を、構成種数つきの表で見られるようになったことと、データベース情報(メタデータ)の形式を、多様性情報を世界的に共有するプロジェクトであるGBIFで用いられている標準形式(EML)に変更したことが違いになります。
世界的な種名のデータベースは、生物多様性分野でも早くから整備が進められてきた分野です。今は、Catalogue of Lifeプロジェクトで各国や各分野の種名情報がまとめられて公開されています。しかし、日本では、昔、上記と関連したSpecies 2000 Asia Oceaniaというプロジェクトで種名情報の収集の呼びかけがありました。しかし、分類学者と乖離した状態だったことなどから、未だ情報の共有ができていないのが現状です。
そういった状況を踏まえ、今回作成したシステムは、日本さらには世界レベルでの種名情報共有のを容易にすることを目的としています。このシステムでは、決められた2つの型紙のエクセルシート(データベース情報、種名情報)を作れば種名データベースが構築でき、それをGBIF経由で公開することもほぼ自動でできるようになる予定です。どれだけ賛同が得られるかはわかりませんが、種名情報を広く共有するための一つの手法として、興味を持って下さる方が出てくると良いなと思います。
Global Plant
世界の70ヶ国、270のハーバリア(植物標本庫)が所蔵する、タイプ標本など2百万点の標本画像データベースです。タイプ標本の検証をオンラインで容易に行うことを第一の目的とした連携プロジェクト「Global Plants Initiative」によって構築されました。興味深いことに、学術雑誌のバックナンバーのデータベースを提供するJSTORから公開されています。ヨーロッパには、図書から博物館や美術館の収蔵品までを一手に扱うアーカイブプロジェクト「Europeana」がありますが、そのコンセプトにも近いかもしれません。
Global Plantは、生物の名前や分布情報共有の枠組みであるGBIF、自然史関係書籍の巨大データベースであるBiodiversity Heritage Library、植物の名前や分布情報などの統合データベースTropicosなどと連携しており、全体として植物の分類情報の活用に大きく貢献しています。
非常に良い取り組みなのですが、アジアで参加している国は日本を含め全くありません。自然史科学連合や分類学会連合あたりで、こういった世界のプロジェクトとの連携を考えてもらえるといいのではないかな、と思います。
国会図書館カレントアウェアネスポータルの記事:
http://current.ndl.go.jp/node/23471
マルハナバチ国勢調査
市民参加型のマルハナバチ調査プロジェクトです。携帯端末(このシステムはスマホだけでなく、従来の携帯にも対応)で写真を撮って送る、という方法で全国展開するプロジェクトは、アイデアとしてはよく聞かれてきましたが初めてかもしれません。
こういうプロジェクトでは、参加者が長く楽しめるようなからくりと、データの精度、とくに同定精度をどのように保つのか、の2点が重要だと思います。環境省の「いきものみっけ」では、掲示板でのやりとりや、ランキングなどのちょっとしたゲーム感覚が聞いていたように思います。チョウ関係の市民参加型調査では、担当者が全ての画像をチェックして精度を担保していました。また、こういうプロジェクトが進まない理由に、携帯端末を使いこなす層に限られることによるデータの偏りを指摘する方もいます。そういった様々な問題や課題に、どういう示唆が与えられるのか、という点でも興味があります。